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自治体への「ロビイング」と「営...
プロダクト
2025/11/13 13:57

多くの企業が自治体向けの事業に挑戦し、そして失敗していきます。その最大の理由は、自治体を民間企業と同じような営業先として捉えてしまうことにあります。自治体には、民間企業とは全く異なる独自の文化、意思決定プロセス、そして「ルール」が存在します。この違いを理解しないままでは、どれだけ優れた製品やサービスであっても、成果に結びつけることは困難です。
成功への鍵は、「営業」と「ロビイング」という二つのアプローチの根本的な違いを理解し、戦略的に使い分けることにあります。既存のルールの中で成果を出す「営業」と、ルールそのものを創り変える「ロビイング」。この両者の役割を正確に理解し、適切に組み合わせることが、ビジネスを通じて社会課題を解決し、成果を出すための、最も重要かつ確実な第一歩となります。
まず、それぞれの言葉が何を指しているのか、基本的な定義から確認しましょう。
自治体への「営業」とは、一言で言えば「既存のルール内での成果の最大化」を目指す活動です。一般的に「BtoG(Business to Government)セールス」とも呼ばれます。
• 目的: 自社の製品やサービスを販売し、受注や売上を獲得すること。
• 対象: 事業を担当する課の職員や、購入の決裁権を持つ管理職など。
• 活動内容: 自治体特有の「前例」や限られた「財源(予算)」といった制約の中で、自社製品がいかに優れているか、自治体の業務にどう貢献できるかを具体的に提案します。
つまり、今あるルールの中で、製品やサービスを販売する活動が「営業」です。
一方、自治体への「ロビイング」とは、制度変更や新たな政策形成を通じて「ルール自体を創り変える」ことを目指す活動です。
• 目的: 社会的・制度的な「変化」を生み出すこと。その究極的な価値は、新しい補助金制度の創設や規制緩和などを通じて「新市場を創出」することにあります。
• 対象: 条例や予算を決定する権限を持つ議員、首長(市長や町長など)、あるいは政策立案に関わる幹部職員など。
• 活動内容: 社会課題の解決策として、なぜ新しい制度や政策が必要なのかをデータや事例を用いて情報提供し、対話を通じて意思決定に影響を与えます。
つまり、ルールそのものを創ったり、変えたりすることを目指す活動が「ロビイング」です。
では、具体的に両者はどのような点が違うのでしょうか。目的、対象、期間、成果という4つの観点から詳しく見ていきましょう。
自治体へのアプローチを成功させるためには、まず「営業(Sales)」と「ロビイング(Lobbying)」の定義を明確に区別することが戦略の起点となります。端的に言えば、「営業」は既存のルール(予算・制度)の中で競争する活動であり、「ロビイング」はそのルール自体を創り変え、新たな市場を創出する活動です。
両者の違いを以下の表にまとめます。
項目 | 営業 (Sales) | ロビイング (Lobbying) |
アプローチ | 既存市場での競争 | 新市場の創出 |
目的 | 受注・売上獲得(今ある予算で売る) | 制度変更・政策形成(新しい予算・市場を創る) |
ゴール | 既存のルール内で成果を最大化する | ルール自体を創り変え、新市場を創る |
対象 | 担当課(事業の実行者) | 首長・議員(ルールの設計者) |
期間 | 短期的な成果 | 中長期的な戦略 |
この二つの機能は、対立するものではありません。むしろ、両者を戦略的に使い分けることで、社会課題の解決とビジネスの創出という強力なシナジーを生み出すことができます。ロビイングが新たな予算という「土壌」を耕し、営業がその土壌に的確な「種」を蒔いて成果を刈り取る、という補完関係にあります。
この違いを理解することがなぜ重要なのか。それは、自治体が民間企業とは全く異なる「ルール」で動いているからです。次の章では、その特殊性について詳しく見ていきましょう。
「営業」アプローチは、既に存在する予算や制度の枠組みの中で、自社のサービスや製品を採択してもらうための活動です。ここでは、自治体職員の思考や業務プロセスに寄り添った、特殊な営業手法が求められます。
自治体職員に提案内容を理解してもらうには、「言葉の翻訳」が不可欠です。民間企業で通用するセールストークは、自治体では響きません。彼らが重視するのは、企業の利益ではなく、あくまで行政としての目的達成や住民への価値提供です。
民間企業への営業 | 自治体への提案 |
機能・スペック | 政策目的・社会課題 |
価格・コスト | 行政負担の軽減 |
ROI (投資対効果) | 住民価値 (QOL) |
多忙な自治体職員が最も嫌うのは、自分たちに思考や調査を委ねる「丸投げ型」の営業です。一方で、課題と解決策を具体的に提示する「提案型」のアプローチは歓迎されます。
嫌われる「丸投げ営業」の例
• 「とりあえず資料見ておいてください」(目的が不明瞭)
• 「何か困っていることありますか?」(相手に考えさせる)
• 「予算いくらありますか?」(予算を奪いに来る姿勢)
喜ばれる「提案型営業」の例
• 「御市の課題〇〇に対し、この解決策が有効です」(仮説と目的が明確)
• 「国の△△の動きに合わせ、□□を打ちませんか」(ロードマップの提示)
• 「〇〇補助金を活用すれば実質負担は少額です」(予算を持ってくる姿勢)
優れた提案書とは、受け取った担当者がそのまま上司への説明や内部決裁に使える「武器」となるものです。担当者が庁内で戦うためのロジックを提供することが、承認への最短ルートです。そのための構成が「黄金の5ステップ」です。この構成を無視した提案は、担当者にとっては「解読と思考が必要な厄介事」であり、多忙な彼らが時間を使ってくれる可能性は低いと心得るべきです。
1. 背景 (Why Now?) なぜ「今」この提案が必要なのか。国の⽅針や⾃治体の総合計画との整合性を示し、思いつきではない必然性を証明します。
2. 課題 (What's the Problem?) どのような課題を解決するのか。客観的なデータを基に地域の課題を可視化し、「個人の感想」を排除して課題感を共有します。
3. 解決策 (How to Solve?) どのように課題を解決するのか。提案がどう課題解決に結びつくかを具体的に⽰し、「なぜ民間活用か」を明確化します。
4. 効果 (What's the Benefit?) どのような効果が期待できるのか。導入後の定量的・定性的メリット(住民価値・QOL向上など)を提示します。
5. 予算 (Financial Plan) 必要な予算と財源は何か。概算費用だけでなく、活用可能な補助金などを提示し、「実質負担額」への懸念を払拭します。
この構成で提案することで、担当者はスムーズな庁内決裁を進めることができます。しかし、そもそも予算や前例がない場合はどうすればよいのでしょうか。そこで必要になるのが、ルールを創る「ロビイング」アプローチです。
「ロビイング」とは、まだ予算や制度が存在しない領域において、政策そのものに働きかけ、新たな市場や予算を創り出すための中長期的な活動です。これは単なる製品の売り込みではなく、社会課題解決に向けたパートナーとしての戦略的対話です。
ロビイングに関して最も多い誤解が、「地元の有力な政治家や議員に頼めば、鶴の一声で決まる」というものです。これは正しくありません。政策実現には、政治家(議員)と行政(職員)の「両輪」で進める必要があります。
• 政治家(議員)の役割:『優先順位付け』 議会で質問することで、特定の課題に対する予算配分の優先度を上げる役割を担います。しかし、彼らが直接、具体的な事業の実行を行うわけではありません。
• 行政(職員)の役割:『事業化の実務』 実際に予算を組み、仕様書を書き、契約を行うのは行政職員です。彼らが納得していなければ、どんなに議員が後押ししても、事業は現場で必ず止まります。
両者の役割を理解し、それぞれに適切なアプローチを行うことが不可欠です。
行政が最も苦手とするのが「前例がない」事案への対応です。この壁を乗り越える最も有効な戦略が、「小さな実験(実証事業)」として提案することです。
いきなり本格導入を目指すのではなく、まずは対象範囲や期間を限定した「実験」を提案することで、自治体側のリスクを最小化し、新しい取り組みへの心理的ハードルを下げます。この実験で「処理日数が30%短縮した」「住民からの苦情がゼロになった」といった客観的な成果を出すことができれば、それが「新たな前例」となります。この新しい前例を基に、次年度以降の本格的な予算化や事業拡大へと繋げていくのです。
ロビイングを成功させるには、自社だけの力でなく、外部の力、特に「味方」と「追い風」を戦略的に活用することが重要です。
• 「議員」を味方につける 議員は、地域住民の声を行政に届ける「橋渡し役」です。彼らの関心事(選挙区の課題解決、住民要望など)を理解し、味方につけることで、行政を動かす強力な波及効果が生まれます。
• 国の補助金という「エレベーター」に乗る 自治体独自の財源には限りがありますが、国の補助金や交付金を活用できれば、導入のハードルは劇的に下がります。あなたの提案と国の補助金をセットにすることで、その提案は決裁という上の階層へ一気に進む「エレベーター」に乗ることができるのです。
このように、ロビイングとは、事業が採択されるための「土壌」を戦略的に耕す活動です。この土壌が整って初めて、前述の「営業」アプローチが最大の効果を発揮します。
重要なのは、これら二つの活動を対立するものとして捉えるのではなく、むしろ実務の世界で連携を深めている補完的な関係として理解することです。両者を戦略的に組み合わせることで、より大きな成果を生み出すことができます。
具体的な連携イメージを、より分かりやすい例で見てみましょう。
ある企業が、老朽化した橋の点検を安全かつ効率的に行う、最先端のドローン技術を開発したとします。
【ロビイング段階】 しかし、自治体には「ドローンによる点検」という予算項目が存在せず、従来の危険な人手による点検が続いています。そこで、企業のロビイングチームが議員や土木部門の幹部に働きかけ、安全性向上や長期的なコスト削減に関するデータを提供します。その結果、「テクノロジー活用型インフラ点検」に関する新たな条例と実証実験のための予算が作られます。
【営業段階】 この新しいルールと予算が整備されたことで、初めて営業チームの出番がやってきます。彼らは新設された枠組みに合致する具体的な提案を担当課に行い、スムーズに契約へと繋げることができるのです。
この関係性は、農業に例えると非常に分かりやすいでしょう。
ロビイングが「土を耕し、種をまく」活動だとすれば、営業は「育った作物を収穫する」活動と言えます。
良い土壌(=制度)がなければ作物は育ちませんし、作物を収穫(=受注)しなければ事業として成り立ちません。両者は一体となって初めて、大きな価値を生み出すのです。
さらに、この関係は一方通行ではありません。現場の営業チームが日々集める「既存の制度では対応できない市民ニーズ」や「予算上の制約による業務の非効率」といった情報は、次のロビイング戦略を的確に定めるための、極めて価値の高いインテリジェンスとなります。このように、営業は市場創出を目指すロビイング活動の「目や耳」としての役割も果たすのです。
本稿で解説してきたように、自治体向け事業の成功は、「営業」と「ロビイング」の戦略的な使い分けにかかっています。改めてその違いを整理すると、「営業」はすでにある予算を獲りに行く活動であり、「ロビイング」はその予算そのものを創りに行く活動です。
最後に、この二つのアプローチを組み合わせた具体的なシナリオを見てみましょう。
1. 情報収集(すべての起点) 公開されているデータや議事録から、ある自治体が「高齢化に伴う移動手段の確保」に課題を抱えていることを特定する。
2. ロビイングフェーズ(土壌づくり) 地域の課題解決に関心の高い市議会議員にアプローチ。「高齢者向けデマンド交通システム」の導入を提案。国のデジタル田園都市国家構想交付金を活用した「小さな実験」を企画し、財政的な負担が少ないことを強調する。
3. 政策化(ルールメイキング) 議員が議会でこの課題を取り上げ、実証実験が承認される。実験は成功を収め、利用者から高い評価を得る。この成果が「新たな前例」となり、次年度の本格導入に向けた予算が確保される。
4. 営業フェーズ (刈り取り) 新たに創設された予算と事業計画に基づき、担当部署(例:健康福祉課)に対して、第3章で解説した「黄金の5ステップ」を用いた、仕様に完全に合致する「武器」となる提案書を提出。 競合他社に先んじて、スムーズに受注を獲得する。
このように、「営業」と「ロビイング」は分断された活動ではなく、連動する一連のプロセスです。この違いを深く理解し、戦略的に実践することで、あなたの会社は単なる「業者」から、地域課題を共に解決する「パートナー」へと進化することができるでしょう。
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